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従業員は会社売却(M&A)で本当に不幸になるのか?

今回は、会社売却を考えておられる方の8割9割が気にされている「従業員」に関することについてです。
少しでも気になっている方にとってお役に立てるものもあると思いますので、是非読んでみて下さい!

1.多くの売り手が気になる従業員に関すること

1.1.従業員に関する気になること

過去のクライアントが良く気にされていたことをまとめてみました。

・従業員から裏切りと思われないか?
・売却対価を受け取ることに少し後ろめたさを感じる
・売却後の環境変化で従業員が不幸になるのではないか?
・売却後の従業員との関係は?

今会社売却をお考えの方も一つくらいは気になっているかもしれません。
結論から申し上げると、当社としては「全く気にする必要は無い」といつもアドバイスさせていただいています。
様々な案件を見てきましたが、結局問題になっているケースは無く、大半は売り手の考え方の問題だからです。

1.2.従業員に「裏切りだと思われる」と思いこむのはなぜか?

多くの売り手は、会社を途中で人に任せて自分が引退をすることに若干の抵抗を感じるようです。
例えば、「自分がトップ(代表)なのだから、責任を持って最後まで残らなければ」といったものです。
これは、いつも資金繰りや会社・事業の将来に頭を悩ませて、自分一人ではなく会社全体のことを考えながらピンチを乗り切ってきた社長ならではの【責任感】がそうさせるのではないかと思います。

しかし、なぜか「自分の息子や会社の役員・社員に社長の座を譲る」ということになると、そこまでの抵抗を感じないようです。
経営を任せる相手が自分の親族や会社の人間であるか否かは、そこまで重要なのでしょうか?

本質的には全く重要ではなく、任せる相手というのは会社やその事業を維持・発展させて、社員の雇用も守ってくれる人という方が重要なはずです。

つまり、会社を売却して他の人に経営を任せるという行為そのものはなんら悪いことではないということです。
言い換えると、親族であれ社内の人であれ、社外の人であっても、任せる人を間違えて会社の存続を危うくすること自体が問題です。
「自分がいなくても会社を存続・発展できるようにしておく=誰かに任せる」ことが社長の責任を果たすということになるのかもしれません。
少し余談ですが、「資本と経営の分離」という言葉をご存知でしょうか。
上場企業の株を想像してもらうと分かりやすいのですが、会社の経営とは無関係な株主が大半です。
上場企業の株主達はその会社の事業について、詳しくないどころか経験すらしていないということも多いはずです。
会社を任せるには会社を良く知らないといけませんので、特に中小企業においてはその目利きは社長であり株主ではないと当社では考えています。

もちろん、会社法というルール上は株主総会で役員を選任・解任できますので、株主が会社を任せる人を選べることになっています。

ただ、現実問題として、会社の問題点や改善点が一番見えている(いなければならない)人=「社長」でなければ、会社・事業を存続させるために必要なスキルや経営力を持った人を選べるとはとても思えません。

その意味で、会社を任せる相手を選ぶのは、社長が適任であり最後の責任ある大仕事になると考えます。

1.3.会社売却に後ろめたさを感じるのはなぜか?

上で書いたことに加えて、株式譲渡代金として多額の報酬を受け取ることになる、という点もその心理状態に拍車をかけているのではないかと感じています。

ただ、この点は上記の問題(会社を誰かに任せること)とは分けて考える必要があります。
ここでも「資本と経営の分離」の話になりますが、先ほどは「経営者」としての話であり、ここでは「株主」としての話となるからです。

ご存知のとおり、会社を売却するということは、会社の株式を売却するということです。
多額の報酬というのも、株式の譲渡対価になりますので、あくまで「株主」が受け取るのであり「社長」が受け取るわけではありません。

中小企業のほとんどは「社長兼株主」という状態になっているため、普段は全く意識されることが無いこともあり、このような後ろめたさを感じることに繋がっているのだと思います。

ここでも上場企業の例になりますが、会社がどんどん成長することで会社の価値が上がり、自分が保有している株式の価格も上がっているとします。
この株式を売却すると、多額の資金を得るのは当然「社長」ではなく、もちろん「社員」でもなく、「株主」であるあなたであるはずです。

こうして考えると、後ろめたいもなにも無く、当然の権利であることが分かります。

これは株式会社というルールであり、出資しているお金というリスクを負った上でのリターンですので、何ら気にされる必要は無いと考えます。

付け加えるとするなら、「株主」としてだけでなく、「社長」として借入金の個人保証までしてそれこそ多額のリスクを負いながら、ある時は精神をすり減らしながら経営してきたわけですから、多額のリターンを得る権利はあると胸を張ってください。
売り手の後ろめたさが少しでも無くなってもらえたら嬉しいです。

2.そもそも従業員の目的とは?

2.1.従業員が望むこと、望まないこと

ここまで、社長や株主といった立場から見てきましたが、
ここからは従業員そのものにスポットを当てていきます。

従業員が望んでいることや望んでいないことを知ることで、会社を売却することが従業員にとってプラスかマイナスかが明確になります。

ところで、従業員はあなたの会社や仕事に何を望んでいるのでしょうか?

根本的なところから考えましょう。

①そもそも生活の糧として働いているから給料をもらいたい
②居心地の良い職場だから、多少同業より安くても働き続けたい
③自分が望む仕事をさせてもらえているからこのまま続けたい
④今更職場環境が変わるのは望ましくないから働き続けたい
⑤社長(あなた自身)に魅力を感じているから働き続けたい

おそらく、ほとんどの方は①は必ず望んでいると思います。
働かなくても良いほどの資産は社長でも持っていないことが多いのに、従業員が持っていることは考えにくいからです。

その他はどうでしょうか?
①と②、①と④、①と⑤、①~③など、人によって様々あることは容易に想像できます。

ここでは、①が多くの方の望むこと(裏を返せば給料をもらえなくなることや減ることは望まない)に入っているという点が最重要です。

つまり、従業員の目的とは、複数存在しているが、「最低でも収入を得たい、そしてできれば望む職場環境で働きたい」ということだと考えることができます。

3.会社を売却することは従業員の目的にとって本当にマイナスなのか?

3.1.マイナスではないと断言できるその理由

従業員の目的とは「最低でも収入を得たい、そしてできれば望む職場環境で働きたい」ということだと定義しました。

そして、【会社を売却する】ということを【社長が変わること】と【売り手(社長)が売却の対価を得る】の2つに分解して考えます。

この定義に照らせば、【社長が変わること】という事象は、従業員の目的にとってマイナスなのでしょうか?

売却後に給料を下げられたり、職場の雰囲気が変わることによるマイナスの影響ということは考えられます。

ただ、通常会社売却においては、「従業員」に関して譲受(買い手)側の方からは大変慎重に扱われることになります。
理由は単純で、会社・事業が回っているのは従業員がいるからこそです。

彼らが辞めてしまっては多額の投資が無意味なものになってしまいますので、絶対に無下には扱われないということになります。

もちろん100社中100社がそうだとは断言できません。
そこで重要になるのが、上に記載した「誰に任せるのか?」という部分になってくるわけです。

今の会社を売り手(あなた自身)よりも、より良いものにしてもらえるのかどうか?

この観点で選んでいる以上は、従業員の目的にとってマイナスということなどはあり得ないのです。

付け加えるならば、買い手は大抵の場合自社よりも大きな会社になりますので、例えば「住宅ローンを組みやすくなった」「親会社の仕事に携われることでキャリアが開けた」といった従業員にとってのメリットが生まれることも良くある話です。

3.2.そうは言ってもクビになる社員もいるはずではないか?

はい、います。

自ら去っていく従業員も出てくるかもしれません。
このような事実があることも当然過去のケースではあります。

ただ、ここでも2つに分けて考える必要があると思います。

1つは「会社や同僚に対して何らかの損害を与えたり、見過ごせない会社のルール違反が続いた」といったその従業員自身に問題があるケースです。

この話をすると、全員が「それは当然だ」と言われるので、このケースは問題ないと思います。

2つ目は「新しい外部の血が入ることによる環境変化」です。
それは、新たな社長と反りが合わないといったことや、ガバナンス強化による居心地の悪さ、といったことかもしれません。
いずれにせよ「環境の変化」という言葉に集約できると思います。

これはどう捉えれば良いのでしょうか?

【会社の存続・発展】を目的としているのであれば、会社売却はそのために必要な手段であり、必要な環境変化だったということです。

激しく変わる経済環境の中において、【現状維持は退化である】という言葉も有名です。

また、何より会社の存続・発展が、従業員の最低限の目的である「収入を得る」ということと直結している以上、従業員にとっても前向きに捉えないといけない変化と言えるのではないでしょうか。

ここに気付き【変化に適応していく】ことは「社会人」としてのマストなスキルです。

正直、経営者というものは完全歩合という世界ですから、そういった環境で生きてきた社長には当たり前すぎて、このようなことを書くのは気が引けますが、ここは交わることのない人種の違いと割り切る必要があります。

つまり、従業員にとってもプラスとなるように慎重に行った会社売却の後のことまで、自分の未成年の子供のように過保護に面倒をみる必要は無いということをお伝えさせていただきました。

4.まとめ

今回の記事はいかがでしたでしょうか?

結論は冒頭でもお伝えしていますが、本当に従業員にとって悪いことであったりとか、後ろめたいといったことを考える必要はありません。

胸を張って堂々と(売却の話そのものは基本的に秘密裏に行います)会社売却を進めてください。

そうは言っても、長年働いていただいた家族同然のような従業員もいらっしゃる人にとっては、いきなりスパッと割り切れるものでもないことは理解しています。

マイナス思考にならず、良いお相手を選ぶということを意識していただくことが、今できる最善だと思っています。
少しでもご参考になれば幸いです。