『やること3選』
①資料の収集と提出
②インタビューに応じる(隠し事はしない)
③キーマンの把握
それでは順に見ていきましょう。
①資料の収集と提出
まずは1つ目です。
M&Aを決断後、M&A会社との契約を締結します。
まず最初に資料の提出を求められますが、そこは可能な限り応じて下さい。
財務関係のみならず、各種契約書関係や届出やその他さまざまな資料の提出依頼がきます。
なぜそこまでの資料を求めるのか?
買い手探索は全ての資料を提出せずともできるのではないか?
過去の経験上、実際にこのように思われる方も少なくありませんでした。
お気持ちは良く分かります。
当社も「会社の設立時」や「資金調達の申請時の提出資料」も多く、面倒だなと感じましたので恐らく似たお気持ちなのだろうと思います。
ただ、この「資料提出」は今後の売却活動を左右する非常に重要な作業です。
まず提出された資料でM&A会社は何をするのかというと、
「企業概要書(IM)の作成」
「ビジネスモデルの理解」
を行います。
特に、企業概要書は買い手候補先が検討を行う上でメインとなる資料です。
M&Aはよく結婚に例えられますので表現をお借りすると、企業概要書は「お見合い写真・プロフィール」に当たります。
ここで本質を外した不完全な企業概要書だとすると、お相手は一体どのような印象を抱くでしょうか?
また、買い手候補は企業概要書だけを見て決めるわけではありません。
仲人であるM&A会社に
「実際はどのような方(会社)なのか?」
「なぜ売却をするのか?」
といった書面上では表現しづらい点も確認されます。
書ききれない細かい点まで質問を受けることもしばしばあります。
その時にM&A会社が全ての質問に対して何も答えられなかったとしたらどうでしょうか?
おそらく意欲が低くなることはあれど、高くなることは無いと思います。
M&A会社は仲人であると表現しましたが、M&A成立まで共に進めていくパートナーです。
パートナーが良く理解できていないことや売却する会社に魅力を感じていないということは、お相手もそのまま同じように理解できないし、魅力を感じないということに繋がります。
さらに、お相手が決まった後に待ち受けている「買収監査=デューディリジェンス(DD)」で必ず確認される論点を予め整理し、問題の有無を確認できます。
治癒できる問題であれば事前に解消するということもできます。
実際に過去に実施した案件では、お相手が決まったにも関わらず、DD時にクリティカルな問題になる資料が出てきた(ご本人が存在を知らなかった資料であるため致し方ない点もあります)ため残念ながらブレイクしてしまいました。
※その後、無事に別のお相手が見つかりました。
資料を提出しないことは百害あって一利なしということは必ず覚えておいて下さい。
②インタビューに応じる(隠し事はしない)
これは①とセットになる作業です。
M&A会社に一定程度の資料を提出した段階で、ビジネスモデルと合わせて会社の全体像や詳細を確認をするためにインタビューを実施いたします。
資料提出のポイントと同様なのですが、ここで隠し事があると致命的になります。
これも実話ですが、事前にお聞きしていた株主と異なる株主がDD時に判明しました。
つまり、株式の移動(売買)があったということです。
しかし、売買を証明する資料等は提出されず、インタビューでも移動は無いと話していました。
そのため気付かずにそのままDDまで進んでしまい案の定ブレイクしたという結末です。
インタビューでは資料では確認できないことがあればそれも隠さずに伝えましょう。
悪意を持って隠したところで、いずれはバレますし10ヵ月近い時間が全て無に帰してしまいます。
対処法はありますので、心配な点があるのであれば、なおさら事前に良くM&A会社と会話をするようにしましょう。
③キーマンの把握
最後のポイントは【社内のキーマン】です。
M&Aが進んでいくとどこかで必ず重要な存在になってきます。
どのような点で重要になるのか?
(a)DD時にご対応いただくことになる場合があるから
(b)買い手候補先にとって重要度が高いから
(c)事前に打ち明けなければならない存在であり、正式発表までは内密にしてもらうから
これらはほぼ全ての案件で重要な論点になります。
(a)DD時にご対応いただくことになる場合があるから
ある程度の会社規模になると、社長が全てを一人で把握しているということは考えにくいと思います。
それにも関わらず、DDでは様々な質問が飛んできます。
特に多いのは財務関係で、経理に聞かないと分からないということもざらにあります。
ほとんどの買い手候補先もDDを実施しない訳にはいかず、回答が無いことには前へ進まないといったことにもなり得ます。
そのため、キーマンには事前に開示し、DD対応を一部お手伝いいただくという場面も出てきます。
(b)買い手候補先にとって重要度が高いから
買い手候補先にとってはもっと重要かもしれません。
それは買収後も残っていただかないと事業運営に支障を来してしまうためです。
また、事前にどのようなキーマンがいるのかを把握しておくことで、自社からの人材との連携や必要な人材の手当を考える必要があります。
(c)事前に打ち明けなければならない存在であり、正式発表までは内密にしてもらうから
一般的に従業員への開示は「無事に株式の譲渡が終わったタイミング」で発表をします。
ただ、DD時に対応していただく必要があるキーマンは事前にM&Aという存在を知ることになります。
そこで口止めはもちろん、退職してしまわないようにしっかりと話し合いを行い、M&Aという決断をしたことにご理解いただくように努めなければなりません。
キーマンが抜けるとなった場合には買い手候補先から中断されることもあり得ます。
株式譲渡後も同様で、株式譲渡契約書には「キーマン条項」が盛り込まれることもありました。
※キーマンが辞めたら譲渡代金の一部を返還するといった内容
キーマンに関することだけでもこのような重要な場面があります。
時には一人だけでなく、「財務・経理」や「営業」というそれぞれの部署にキーマンが存在する、といった場面です。
このキーマンについても良くM&A会社と会話し、M&Aのことを伝えるタイミング(正解はありません)を考えていただきたいと思います。
以上、売却を決断した後のやること3選について書かせていただきました。
ご参考になれば幸いです。